top of page

会長挨拶

清水学会長.jpg

1993年に、ロンドン大学の今は亡きデヴィッド・ブラッドビイ教授から「寺山修司の全作品の英訳とその研究をするように」との助言をいただいた。それ以来、永い歳月が経ち、その間には、デヴィッド・ブラッドビイ教授が逝去され、また寺山修司前夫人の九條今日子さんも2014年4月30日に鬼籍に入られました。

寺山修司が亡くなってから三十数年が過ぎて、寺山自身を知る人も高齢化し、故人になられる人も数多くなりました。

 

2006年(平成18年)5月6日(土曜日)に、寺山修司の業績を称える国際寺山修司学会が名古屋市民会館の第1会議室で漸く設立された。

学会設立に至った目的の一つは、デヴィッド・ブラッドビイ教授の勧めによる寺山修司全作品の英訳であり、次いで、寺山の作品を世界中の人に読んでもらい、上演し、研究論文を書いてもらうためでした。

国際寺山修司学会の設立総会の案内の中で、その趣旨と目標を、私は以下のように綴って纏めました。

かつて寺山修司は国内だけでなく海外でも公演を行い、全世界を股に掛け上演活動を行いました。さらにまた、国際演劇祭や国際映画祭に参加しました。海外では寺山の演劇が蜷川幸雄や鈴木忠志氏らと同様に注目されました。

殊に寺山修司は詩人であり、前衛劇作家であるところに特徴がありました。ところが、現在、寺山が海外の演劇人に与えた影響は一体何であったのか、未だに十分解明されているとは必ずしもいえません。また、劇作家としての寺山と、海外の戯曲家との関係を本格的に論じた批評もいまだに現れたとはいえない現状です。

今こそ、寺山修司を、国文学はもとより、グローバルな視野でも捉える研究が必要になってきました。

ソポクレス、エウリピデス、ウィリアム・シェイクスピア、サミュエル・デフォー、ジョナサン・スウィフト、アントナン・アルトー、アントン・チェーホフ、テネシー・ウィリアムズ、ジャン・ジロドゥ、ジャン・アヌイ、マルグリッド・デュラス、フェルナンド・アラバール、ガルシア・マルケスなどの作家たちの作品と比較検討し、寺山の演劇を解読していく必要があります。

また、寺山修司は戯曲に短歌や俳句をコミットしています。したがって寺山修司を歌人として戯曲にアプローチする方法を提示することが求められます。さらには演劇や映画の他、スポーツや競馬、医学などの幅広い分野で寺山修司は活躍をしました。したがってマルチメディアの視野から、あらゆる視点に立って寺山修司研究を極めていかなければなりません。

 

今求められているのは、日本はもとよりユニヴァーサルな展望に立った寺山修司研究をして、集約する学会です。その一人、アメリカのウインスコンシン大学のスティーヴ・リジリー教授は国際寺山修司学会の研究活動に惜しみない助言を与えてくださっています。

国際寺山修司学会では、寺山を詩人として、劇作家として評価し、さらにカレイドスコープ的なアイデンティティを総括的に研究する機関であります。

国際寺山修司学会は設立されて以来13年の学会活動のなかで、様々な研究者による研究、発表が行われました。

ポーランドで寺山修司を研究する津田晃岐氏は、近年学位論文として寺山修司について書き上げました。

守安敏久氏は、2017年2月に『寺山修司論―バロックの大世界劇場―』を上梓されました。この著書はこれまでの寺山修司研究の精華であり今後の寺山修司研究の新機軸を示した大著であります。

また音声学から寺山修司を研究し学位をとった赤塚麻里氏、寺山修司の詩を学位論文にまとめた小菅麻起子氏、さらに、久保陽子氏、森岡稔氏、葉名尻竜一氏らが様々な角度から寺山修司を研究し学位を取って成果をあげ、さらに新たに若い学徒が研究成果を挙げています。

国際寺山修司学会の研究はまだ道半ばにありますが、諦めることなく辛抱強く邁進すべきだという天の声に耳を傾けて精進する覚悟でいます。

今後の学会活動や学会刊行書『寺山修司研究』によって、若い学徒が寺山修司研究に寄与できるよう学会活動や研究成果発表の場として、末永く研究を継続していくことを願っています。

 

 

 

2019年(令和元年)8月吉日

国際寺山修司学会 学会長 清水義和

bottom of page